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LIKE VOL.9 Atsuto Tani
自分は何が“好き”なのか。分かっているようで、実は分かっていなかったりする。
“好き”は、どんどん変わっていってもいい。
でも、今何を“好き”なのかは分かっているといい。
自分の“好き”をわかっている人たちが、ジョンブルを着こなしてくれる連載。
第9回は、「IMA:ZINE」ディレクター谷篤人(Tany)さん。

――どんな時間が、“好き”ですか?
気を遣わない相手との気を遣わない時間です。
東京に来るときは展示会や商談がメインなので、テンションを緩めてくれる場所に行く時間をあえて作っています。
それがここ「thisway」。
構えずに来て、そこから偶然仕事の話になっていく時もあるし、先を考えて計算するということをせずに自然でいられます。だからこそ面白い発想が生まれたり、何にも囚われない場所という感じ。ゴールを見据えて逆算をしたり、予測をしていくということがどうしても多くなるのが、商談や仕事の場面。けれど、この場所はそういうことは考えず、“楽しいことできたらいいんちゃう”というゆるい空間と雰囲気、人柄がここにはあるんです。だからこそ、「IMA:ZINE」にとっての素敵なプロジェクトもここで生まれてきたんだと思います。


――谷さんにとって「thisway」のような心地よい場所は多くはない?
こういう場所は自分にとって本当に少ないです。知り合いは多いのですが、なんでも話せる友人となると本当に少なくて5人くらいかな。ムカつくこと、嬉しいこと、もう何でも全て吐き出せる相手ってほとんどいない。彼はそのうちの1人です。
大学2年からの付き合いなのですが、ドレッド、ボロボロのデニム、エアフォース履いて、自分の表現を存分にしている彼はすごく大学では目立っていました。目が合った瞬間にボールを投げてきて、思わず受け取ったら「毎度」って言われたんですよ(笑) その衝撃的な出会いから、成功体験もある意味の失敗体験も色々と共有してきた仲。

――そういう何気ない時間が、自分にとって"好き"な時間だと気づいたのはいつ頃でしょうか?
昔は何かコトを起こすことや成功体験が楽しかった部分があるのですが、今は何気ない相手と何気ない時間を過ごして、その空間で平常心でいられるということがどれだけ大切か感じるようになりました。新しい体験や経験ばかりで感動を得るのではなく、普段気づかなかったこと、小さなことに対して感動できるようになったんです。
それはコロナ禍からですね。スピーディ、ゲリラ、ナマモノ、という瞬発ですることによってインパクトや感動を与えようとしてきて、それで満足している部分が自分の中にありました。でも、コロナ禍に久しぶりに実家に帰ったとき、各駅停車で帰ってみたら、景色が変わっていることを感じたんです。コロナ前は忙しいし、とにかく時間優先で高速や快速などを使っていたので、景色の変化になんて気づかなかったんですよね。
こんなに変わってるの?と驚いたとき、スローダウンするということで小さな感動を得るチャンスが増えるということに気付きました。
そこから、「IMA:ZINE」もそうですが、僕自身も、ゲリラやスピーディではなく時間軸を丁寧に捉え、ちっちゃなことに対して振り返ることやバックすること、スローダウンすることが大切だと思うようになりました。
それとともに、テクニカルなものが好きだったけれど、ハンドメイドやクラフトマンシップのものに惹かれるように。これは歳をいったからかなと思いつつも(笑)


――今日着用いただいたデニムジャケットはどこが“好き”でしたか?
ヘラクレスは老舗のブランドで、ヴィンテージを探したらなかなか手に入らないワークウェア。ワークウェアという存在が持つ昔から変わらないよきディテールなどを残しつつ、今にアップデートされていると感じました。
ヘラクレスの不変なデザインが今の時代にそのまま落とし込まれていることで、逆に自分なりに好きなように編集しやすいアイテムだと思います。シーンによっては洗練されたスタイリングもできるし、はずしとしても活躍すると思うので。編集しやすい=自分が出しやすいアイテムということだと思うので、いいモノづくりだと改めて感じました。安心感を与えてくれながら、自分が表現したいものをそっと引き出してくれるようなギアである1着。


――谷さんが”好き”だと感じるモノは、背景や過程、作る人にフォーカスしているんですね。
iPhoneでももちろん充分ではあるのですが、フィルムカメラを始めたんです。親父がカメラ屋をずっとやっているということもあって。
それに、すぐ結果を欲しくなくなってきたということも理由の1つ。結果よりもその過程を楽しめるようになったんです。自分の中でモノの見方が変わってきたと感じています。
そのモノを買うというのではなく、作った人と話してみたいとか、作った人はどんな人なんだろうという部分がまず気になります。やっぱり人だな、と。世の流行とか全く考えていないですね。もうゼロに近いです。
その人と話してみて、その人の経験や生き方を知っていき、惹かれていく。そうすると、その人が作ったモノの背景や魅力も見えてくる。だからまずお話ししてみるんです。
自分はバイヤーというより、編集者という感覚に近いと思うんです。話して接して触れて、感じた哲学をメッセージとして発信するという役割。哲学を発信すれば、それを受け取ってくれたお客様もまた編集して自分のものにしやすいと思うんです。そのまま真似するとかではなく、こういう考えでこういうスタイリングするといいな、と哲学を読み取ってもらえるよう伝えていきたいと思っています。
ボブマーリーの言葉で「雨を感じられる人間もいるし、ただ濡れるだけの奴らもいる」という言葉があるのですが、濡れたという事実だけを受け止めるのではなく、濡れているからこそ感じられるものを感じたい。
みんな絶対に、居心地のいい空間で気持ちのいい服を着て、ゴロゴロしたり、美味しいご飯を食べたり、そういう時が幸せなはず。好きな人に会っている時も幸せだろうし。
シンプルな話だと思うんです。
そういう時の1番素敵な顔って、人には見せられないような緩みきったぐちゃっとした顔なんじゃないかなと思う。それが好きってことで、それが本性じゃないかなと思います。

チョアジャケット
lot.HE251L01
col. black
size. 34 / 36 / 38 / 40 / 42
price. ¥36,300 tax in >>BUY
谷 篤人
ATSUTO TANI
プロフィール
1978年生まれ、堺市出身。25歳の時にBEAMSでアルバイトを始め、関西プレスを経て東京に異動し、バイヤーを担当。名物バイヤーとして、数々のプロジェクトを手がける。2017年に退社し、大阪・中津のエディトリアルストア『IMA:ZINE』の立ち上げメンバーとしてジョイン。ファッションへの愛と自身の哲学、想いを込めた唯一無二のプロダクトを生み出し続ける、関西ファッションシーンのキーマン。
『IMA:ZINE』
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大阪市北区中津3-30-4
06-7506-9378
12:00-19:00 (Sun12:00-18:00)
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https://imazine.online
Photo : ImaTatsu
Edit & interview : Maki Kakimoto (Lita) @makikakimoto
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